【完】素直になれない君と二度目の溺愛ウェディング
確かにラインでそのような話はしていた気がした。 でもまさか’早く帰りたい’とは到底言い出せない雰囲気だ。
にこりと笑みを作る弓香さんを前に、苦笑いを浮かべエプロンをつける。
仕方がない…。もう少し付き合おう。 レナと約束している夜までには間に合うはずだ。 それにいつもレナに料理を作ってもらって申し訳ないと思っていた。突然俺が料理なんか始めて、彼女を驚かすサプライズをしたいと思っていた所だ。
前向き。前向きに考えよう。
料理はほぼした事がなかった。
そんな俺に弓香さんが教えてくれたのは誰でもちょっとのコツでパラパラになる炒飯だった。
驚く程上手に出来たので、自分でもびっくりした。 材料も大した物は使ってないし、料理工程も単純な物でこれならば俺でも作れそうだった。
「娘が好きなのよ」
「娘さんが? 確かに美味しいや。 こう言っちゃアレですけど、弓香さんはいつも凝った料理ばかり作ってますからね。
だから意外です。こういったシンプルなレシピは」
「娘はあんまり凝った物は好きじゃないのよね。
私も仕事してて忙しいから最近は作る機会もないわあ。
でもあの子パパの方が懐いてるし、ばあばもいるから寂しくはないんだろーけど」
そういった弓香さんの横顔はちょっとだけ寂しそうだった。