花筏に沈む恋とぬいぐるみ
花が依頼した十三師は少し遠い場所に住んでいた。そのため、花は電車を何回か乗りついて移動した。
到着した駅は、栄えた場所から離れた古さが残る商店街がある町ある駅だった。
タクシーに乗り換えて10分ほどで目的地に到着した。
そこは、広い敷地は背が高い塀に囲まれており、そこからは平屋の瓦が見える。立派なお屋敷で、庭があるのか木々も塀から見え隠れしている。表札には「一堂」と書かれている。
花が近づくと、待機していたのかすぐに木の扉が開きそこからは、艶のある長い黒髪の少女だった。年は花より年下で中学生ぐらいの女の子だった。真っ黒な着物を着ており、肌の白さがとても際立っている。その少女が、花の父親が宝石の瞳のテディベアに魂が入っていると教えてくれた十三師だった。
「お久しぶりです。お待ちしておりました、乙瀬様」
「こんにちは。よろしくお願い致します」
一堂は深く礼をするので、花もそれに合わせるように頭を下げる。
同時に顔を上げた花を一堂は、にこりと微笑んで見て「こちらへどうぞ」と屋敷の中を案内してくれた。
案内されたのは広い庭の中の離れだった。大学生が一人暮らしをするようなこじんまりとした大きさの離れは、畳みが敷いてありまるで茶室のようだった。使用時からは太陽の光が入ってきているが、うす明かりだけのため、一堂は電気をつけた。奥に花を座らせ、手前に一堂が座る。
「今回は貴重なお時間をありがとうございました」
「こちらこそ、遠くまでわざわざありがとうございます。ですが、そこまでして相談したいという事は大変な事なのでしょうか。もしかして、お父様はまだ成仏してないのでしょうか?」
「いえ……お父様はすこし前に無事に見送りました。本当にありがとうございました」
「そうですか。それはよかった……」
一堂は安堵した表情を見せ小さく息を吐いた。
けれど、すぐに思い出したように不思議そうな顔を見せた。
真剣な表情は大人顔負けなほどに凛々しいが、フッとした時に年相応になる。それが目の前の彼女の魅力であった。
十三師と聞くと、どうしても年齢が大きい人を想像してしまうが、少女は幼い頃より才能を見いだされ、もう相当な数の依頼をこなしているというから驚きだ。けれど、そんな彼女ならば雅の四十九日の奇を解決してくれるのではないか、と思えるのだ。