販売員だって恋します
「優しいんですね。」
言ったことは嘘ではないけれど、辛口で言い過ぎた自覚は由佳にもある。

ただ、今回のお客様をおもてなしする、というニーズには合わないのではないか、と思うだけなのだ。

「今度、あなたのおすすめのお店に是非行ってみたいものですね。」
さらりと、大藤の口からそんな言葉が聞こえた。

由佳はワインを吹きそうになる。
「な……っ、何言ってるんです?!」

今度、なんて……あるの……?
気まぐれなのかと思っていた。

前回は振られた女性の代わりに、ただ同席しただけ。
今回も、お仕事のお付き合いで、呼ばれただけ。

けれど、前回はその後にあった、あれは……、
……あれはなんだったんだろう。

ただ、したかっただけ?
流れ?
部屋に入り、めくるめくような時間を過ごしてしまった、アレは……。

「あなたは、面白いですね。」

ふと気づくと、大藤がキャンドルの柔らかい光越しに、目を細めてそんなことを言うから、由佳はどきん、とする。
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