氷雪の王は温もりを知る
「真白様、食事と湯浴みの用意が出来ています。食事は消化に良く、滋養のあるものを用意しています。お部屋に案内しますので、今日はゆっくり休んで下さい」
「いいんですか?」

 私が尋ね返すと、ポランは大きく頷いた。

「受け取ってくれ。おれたちからの詫びだ」
「ありがとうございます。王様、フュフス様」
「王様ではなく、ポランと呼んでくれ」
「わかりました……」

 私はソファーから立ち上がろうとしたが、体力が落ちているからか、足に力が入らなかった。
 見かねたポランはソファーの前に膝をつくと、不格好な手袋をした手を伸ばして、私の身体を持ち上げたのだった。

「ポラン様!?」

 私とフュフスの声が重なる。
 けれども、ポランは「大丈夫だ」と返す。

「それよりも、真白の部屋まで案内してくれ」
「わかりました。こちらです……」

 諦めた様な顔をすると、フュフスの後ろに私を抱いたポランが続く。
 落ちない様にポランの肩にしがみつくと、私の頬がポランの頬に触れた。

(冷たいな……)

 あの冷たい部屋よりは温かいが、それでもポランの頬はひんやりと冷たかった。

「こちらが真白様の部屋です」

 フュフスに続いて入ると、赤々と暖炉に火が灯ったベッドと机だけの部屋に入る。
 机の上には、私の服と鞄が置かれていたのだった。

「真白様、あっちの扉の先は浴室と化粧台です。浴室には既に湯を入れているので、すぐに入れます」

 フュフスは説明をしながら、ポランに抱えられたままの私に視線を向ける。

「後ほど、傷に効く軟骨もお持ちしますね。手首と足首に塗って下さい」

 どうやら、枷で擦れてしまった私の手首と足首を見ていたらしい。
 気遣ってくれるフュフスに、私は礼を述べたのだった。

 そんなフュフスの説明がひと段落すると、ポランがベッドの上に下ろしてくれた。

「ありがとうございます」
「大したことではない」

 ポランの手が身体から離れる際に、私の身体に引っかかったのか、あの不格好な手袋が左手から外れかけていた。

(手袋、落ちちゃう)

 私は手を伸ばすと、左手を掴んだのだった。

「あっ……」
「触れるな!」

 急にポランが叫んで腕を引っ込めたが、その時には既に私は左手を掴んでいた。
その弾みで手袋が外れてしまったのだった。

「す、すみません……」

 ポランの白く綺麗な左手が露わになる。
 私が身を縮めていると、フュフスまで駆けつけてきたのだった。

「どうしましたか?」
「いや、手袋が外れてしまったんだ」
「すみません。手袋が外れかけていたので、直そうと思ったんです」

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