氷雪の王は温もりを知る
 ポランに返そうと手袋を渡すが、ポランの手に渡る直前に手から滑り落ちてしまう。
 腕を伸ばして床に落ちた手袋を掴むと、上からポランの左手が重なる。
 すると、何故か真っ青になって、ポランは手を引っ込めたのだった。

「あ、あの……」
「す、すまない! 手は大丈夫か!? 凍りついていないか!?」

 私は拾った手袋を渡すが、ポランは手を気遣う言葉を繰り返すばかりであった。
 そうして、何故かフュフスは目を見開いていたのだった。

「手? はい。大丈夫ですが……」
「そうか、良かった……」
「ポラン様。今なら触れられるのではないでしょうか」

 フュフスの言葉に、ポランはハッとした顔をする。
 そうして、覚悟を決めたように頷くと、真っ直ぐ見つめてきたのだった。

「手を貸してくれないか」
「手ですか? はい、どうぞ……」

 私が両手を差し出すと、右手の手袋も外したポランが恐る恐る手に触れてくる。
 冷たい手が私の手に触れると、そのまま握りしめたのだった。
 そうして、ポランは何かに気づいたようにフュフスと顔を見合わせたのだった。

「あの……?」
「フュフス、見ているか!? 真白に触れているぞ!」
「はい。見ていますとも。言ったでしょう。貴方の力はもうほとんど残っていないと。
 その証拠に貴方が触れても、真白様は凍りつきません」

 急に顔を輝かせたポランの姿に戸惑っていると、私の様子に気づいたフュフスが、咳払いと共に教えてくれたのだった。

「失礼しました。かつて、他国からの侵略を阻む為に、この国の国王は氷雪を自由に操る力を持っていました」
「氷雪を操る力?」
「この国は遥かな昔から、他国からの侵略に脅かされていました。
 そこで当時の王は、他国から人が入れないように、この国を守護する神と契約を交わしました。その契約によって、氷雪を自由に操る力を手に入れたのです。
 ですが、その代償として、素手で人に触ると相手を凍らせてしまうようになったのです……。数百年も昔の話ではありますが」
「昔の話……」
「今の王には、氷雪の力はほとんど残っていません。この異常な降雪量を操る力さえ」

 そうして、フュフスはこっそり教えてくれたのだった。

「ですから、もう素手で人に触れられると言っていたのですが、ずっと信じてもらえず……。
ようやく、真白様のおかげで、気づいて頂けたようです。ありがとうございます」
「い、いえ。私は何も……」
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