憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?

ユーリ様は気にしなくていいとおっしゃるけれど、やはり懐妊することは急務であり、皇后となった自分の使命ではないかと思っている。
それには、やはりジェイドの協力が不可欠なのであって、彼にその準備ができていないというのならば、結局私は待つことしかできないのだろう。
「いったい、どうしたらいいのよ」
ぶちぶちと呟くと、目の前に座っているアイシャが不思議そうに首を傾けた。あぁしまった。馬車の中だった。慌てて笑顔を取り繕って「何でもないわ」と笑う。
今日は午後に孤児院の慰問と最近都に整備された庭園を視察して、王城に戻るところだったのだ。
この後は、自室に戻ってしばしの休憩の後に、ユーリ様と夕食を摂ることになっている。
確か今日はユーリ様はずっと王城で執務に当たっているはずなので、息も詰まっているだろう。目の前に座るアイシャの膝上に乗る箱に視線を向けて、微笑む。
毎週の夜の楽しみであるモンシェールのケーキ以外にも、私とユーリ様はいくつかお気に入りのケーキ屋さんがあるのだが、今日はその中でも滅多に食べられないお店のケーキをお土産に買ってきたのだ。
とはいえ、流石に王妃が直々に店に出向くわけにもいかないので、アイシャにお願いして買ってきてもらった。
「シュシューのケーキは久しぶりですから!きっと陛下もお喜びになられますね」
私の視線に気が付いたアイシャはふふふと笑って箱をゆっくりと撫でる。
「えぇ、なかなか王城からは遠いから…今日の視察先がお店に近くてラッキーだったわ」
「あら?言っていただけたら、いつでも私が買いに行きますのに!」
「いいのよぉアイシャだってお仕事抱えているんだから!こうしてたまに食べるのがいいのよ」
侍女に無理をさせてまでケーキを食べようとは思わない。そんなことをしたら、後ろめたくて、おいしさが半減してしまう。
「もしユーリ様が早めにお仕事を終えられていたら、夕食の前にお茶にしようかしら」
「あら、それもようございますね。ではお戻りになったらすぐにお茶のご用意をいたしますね」
ガタリと音がして、馬車がゆっくりと止まった。ちょうどよく、王城に到着したらしい。
ゆっくりと深呼吸して、王妃の顔を作り、馬車を降りれば、迎えの近衛と侍女たちがずらりと並んで出迎えてくれた。
「ご苦労様」
御者と、迎えの者たち両方に声をかけて、王城に入る。
「陛下はどうしていらっしゃる?」
後ろについた、留守番の侍女に問う。
「本日のご政務を終えられて、自室に下がっておられます。」
「そう、ではお茶を用意してくれる?私が入れるから用意だけでいいの」
そう伝えれば、長く王室の中枢に使える彼女は、すべてを理解したという顔で下がっていく。
エントランスホールを抜けて階段を上がり、回廊を歩いて行くと、カンカンと金属を合わせる音が耳に入ってくる。その音にドキンと胸が跳ね上がった。
今も昔もこの王城内でこんな音を立てていて許されるものは一人しかいない。
逸る気持ちを落ち着かせて、窓から下を見下ろせば、下の広場ではジェイドが馴染みの近衛を相手に剣を合わせている。
「ジェラルド殿下も今日はお早く視察からお戻りになられたようです」
私の視線の先に気づいた侍女の言葉に軽くうなずく。実のところ、あの一件以来このくらいの距離で彼を見かけることは度々あったにせよ、言葉を交わしては居なかった。
とにかくジェイドは連日忙しそうであったし、私自身も顔を合わせてもどう反応していいのやらわからなかった。
でも、このままじゃあ駄目よね…。
「ねぇアイリーン、ケーキは余分にあるかしら?」
ゆっくりと視線を、後ろについてくるアイリーンに移すと、彼女はすぐに意を理解してにこりと微笑んだ。
「もちろんでございます王妃さま。毒見役のもの以外にもいくつか余分がございます」
「では、ジェラルド殿下にもお声がけして。あくまでよろしければと、無理のない言い方でお願い。たしか殿下もここのケーキはお好きだったはずだから」
「承知いたしましたわ」
にこりと笑って頭を下げたアイリーンに私は頷いて、また歩を進めた。
部屋に戻り、少し楽なドレスに着替えて、リビングに向かえば、そこにはすでにお茶のセットとケーキが整えられ、侍女たちは姿を消していた。ここからは呼び出すまで彼女たちはやってこない。ジェイドにはアイリーンが声掛けをしただろう。時間さえあれば、やってくるはずだ。
侍女の話によれば、ユーリ様はお部屋にいらっしゃるらしい。ユーリ様にお声をかけようと私は、ユーリ様のお部屋の扉をたたいてみる。
少し待つが返事はない。いらっしゃらないのだろうか、もしくはうたた寝をなさっているのだろうか。実のところユーリ様のうたた寝率は結構高い。しかもそれがソファーの上やベッドならばいいのだが、時々立ったまま眠っていたり、床の上でこと切れていたりすることがあるのだ。これは、回収するか、かけ布をして差し上げなければならないかもしれない。
仕方ないなぁと、ため息交じりにお部屋の扉を開いて中に入る。
入ってすぐ、衣擦れの音が聞こえた。
「っ…あっ…うぅん!…あっ」
そして衝立越しに、寝台の方から陛下のくぐもったうめき声が聞こえて、私はサァーっと血の気が引いた。
ユーリ様が苦しんでいらっしゃる!?ご病気!?どうしよう!とにかく早く助けなければ!そう考えた私は、衝立を倒さんばかりに寝台に走った。
そして、倒れた衝立の向こうに見えた光景を見て、固まった。
だって、だって、だって、だってだってぇえええええええ!!
目の前にあったのは男の人の広い背中だった…全裸の。
そしてその下に組み敷かれている艶めかしい手足に、豊満なお胸と金髪の髪…。
私だけでなく、彼らも固まっていた。
「あ…アルマ…お帰り…ごめん」
第一声は、組み敷かれている方の人…ユーリ様からだった。
肘をついて顔を上げた彼女は、気まずそうであるものの、なんというかお顔が上気していて、瞳も潤んでていつも以上に艶めかしくて。
「っ…お目汚しを、大変申し訳ありません」
そしてもう一人の、背中とおしりだけが見える男…宰相のジフロードが死んでしまいたいとでも言うような絶望的な顔でうなだれたのだ。
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