憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
「それは…大変だったな」
ジェイドの言葉に私は頷く。
この日、夕刻にはジェイドが視察先から戻ってきたのだ。
夕食時までは、事後処理などでバタバタしていたジェイドも少し時間が遅くなった頃にはリビングに顔を出した。
そこで今日の昼間に起こった事を説明すれば、とりあえず近衛側からの報告は彼の耳にも入っていたらしく、改めてこちらサイドからの考察を交えた話をすれば、彼は心底呆れたような顔をした。
「なぜエリスはそれほど、ユーリの妻になりたいんだ?」
ジェイドの問いに私は、肩をすくめる。
「彼女昔から、なぜかとてもご自分に自信がある子ではあったから、まさか自分が拒絶されるなんて思いもしていなかったのだと思うわ。それに、妹君に対する嫉妬もあったのかも。王太子妃を超えるには、国王の伴侶になるしかない。王妃は叶わなかったけど、公妃であるなら少しばかり体面は立つでしょ?」
そう問えば、ジェイドは
「公妃で体面が立つのか?」と首を傾ける。
正直そこは私も疑問なところではある。しかし、国王の寵が厚い公妃ならば話しは別なのではないかとも、思わなくもない。
「まぁ、後はユーリ様へのお気持ちが強いのよ。私の当時のユーリ様レーダーが正しければ、彼女もきっとユーリ様に本気で恋していた候補者の1人だと思うの」
最後は戯けて言えば。ジェイド意地悪く笑う。
「なるほど、アルマと同じで騙された口か?」
「もう!」
頬を膨らませて、むくれて見せる。事実を知らなかったとはいえ、あの頃の真剣にユーリ様に恋していた自分は、本当に恥ずかしい。
「はじめから革新派の令嬢は問題外だったのだがな、しかし公平性のためにある程度候補に残しておく事は必要だった。それがエリスには変な夢を見させてしまったのかもな」
思い至ったようにジェイドが呟いた言葉は、確かに私も引き立てられて行く彼女を見ながら思った事ではあって…。
ある意味彼女も犠牲者なのかもしれない。まぁやり方はだいぶ問題があるから同情はできないけれど。
「彼らどうなるのかしら?」
そう問えば、ジェイドもやはり。分からないなぁと肩をすくめる。
「害する気はなくても、ここまで乗り込んだからな。しかも以前アルマに静止されていたにもかかわらずだ。
恐らく父親は、議員辞職の上、領地に戻されるのは必至。まぁそれで済めばいいのだが…。
あとは…一応義父だから。アースラン兄上がどう出るかだ」
やはり最後はアースラン殿下の動向次第…という事になるのだ。しかし肝心なその動きが
「なぞよねぇ」
「それなんだよな、多分なんらかの動きを起こすなら、まず父上のところに話しを通すだろうが」
「そうね、先王陛下は大層お怒りだし…」
いつも穏やかでニコニコしていた義父があんなに怒る姿は初めて見た。まぁそれほどの事を言ったベルベルト卿が、悪いのだけど…。
「はぁ、疲れるわぁ」
ただでさえ慣れない議員のおじ様達とのかけひきで毎日疲れているのに。今日はその後にあんな事が起こって余計に滅入った。
「早めに休むか?」
労るように髪を撫でられ、私は小さく頷く。
「そうしようかしら」
本当ならば久しぶりにジェイドとゆっくりしたかったのだが、きっと彼も移動で疲れているだろう。明日以降はしばらくは王宮での残務処理だというので、夜も時間が取れるはずだ。
「部屋まで送るよ」
そう言った彼が立ち上がって私の手を取ろうとするので
「すぐそばよ?」
呆れて笑えば、そのまま手を引かれて立たされて、すぐに腰を抱かれる。驚いて彼を見上げれば。
「普段一緒に堂々といられないんだから、これくらいの距離を一緒に歩くくらいは許せ。」
そう甘く言われて、額に口付けられてしまって、私は結局成されるがままにベッドまで送られた。別に酔ってもいないのに…。
そうしてベッドの前に来ると、力強く抱きしめられる。まるで会えなかった日を埋めるかのように彼が私の香りや感触を味わっている様子で…私も彼の背に手を回して、久しぶりの彼の筋肉質な身体の感触や、熱を感じた。
「このまま一緒に寝られたらなぁ」
しばらくしてボソリと呟いたジェイドの甘えるような言葉に、私は首を傾ける。
「えっと…よければ寝る?」
一緒に寝るくらいなら…と言うかこのまま別れるのもなんだか寂しい気もしてきていて…。
そんな私の言葉にジェイドが驚いた顔で私を見下ろす。
きょとんとして見返せば、そこで何を感じたのか…。
「お前なぁ。それってどういう意味か分かるか?」
呆れたように聞かれた。
「え?」と声を上げた瞬間、その声は彼の唇によって消された。
最初は少し強引に、しかし1度2度と離れては重ね直す度に、どんどん甘くなり、私はぼうっとしてしまって、されるがままになってしまう。
ようやく唇が離れて、彼の艶を含んだグリーンの瞳に見下ろされる。
「もうこれだけで俺はやばいんだけど」
「や…やばい?」
言われている意味がいまいち分からず首を捻ると、彼が悪戯な笑みで私の耳元に唇を寄せて。
「一緒に寝たら抱かない自信がない」
「だっ!!」
唐突に出てきた、そんな不埒な言葉に、私は慌てて彼から身を離す。
一緒に寝ることが、どういう事に繋がるのか…そこでようやく思い至ったのだ。
パクパクと口を閉じたり開いたりしながら、真っ赤になっている私に、ジェイドは少々呆れたように笑って
「男ってのはそういうもんなんだ、覚えておけよ」
そう言って、私の頭を引き寄せると額に口付ける。
「少しずつ慣れればいいから…な?」
そう宥めるように私の頭をポンポンと叩いた彼が、離れていこうとするので、私は慌てて彼のシャツの裾を掴んだ。
驚いたようにグリーンの相貌が私を見下ろしたから、私はそれをしっかり見つめて
「じゃあ…少しずつ慣らす機会を頂戴」
と強請るように笑った。
ひゅっと彼が息を飲んで、少しの間があって大きく息を吐いた。
「こりやぁ忍耐との戦いだな…まぁ昔を思えば幸せなことだけど」
なんだか一人で自嘲気味に呟かれ、聞き返そうと首を傾けた私の頭を彼は「なんでもない」と言うようにガシガシと少し乱暴に撫でた。
「おやすみ」
そうして、もう一度不意打ちのように軽く口付けて、颯爽と部屋を出て行ってしまった。
なんなのよもう!
残された私は乱れた髪を戻しながら、彼が消えた戸口を眺めた。
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