憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
「珍しいねアルマが詰襟のドレスなんて」
なんとか心を落ち着けて、アイシャに用意してもらったドレスに身を包んでリビングルームに向かえば、めざとく私の装いに気づいたユーリ様に声をかけられて…。
「たまには、違うものもいいかなって思って」
そう誤魔化して朝食の席に着く。
すぐに侍女達が紅茶を出してくれたので。お茶に手を伸ばす。
「あ、もしかしてキスマーク?」
ガチャン
唐突なユーリ様の言葉に、思わず私は持ち上げかけたカップをソーサーの上に落としかけて、けたたましい音が部屋中に響いた。
「だったりして!って言おうとしたけど…まさか図星?」
あまりの私の反応に、ユーリ様はこちらを覗き込んできた。
「っ、ああのっ」
何をどう説明していいのやら、むしろ言っていいものなのだろうか?というか恥ずかしい!
色々な思いがせめぎ合ってきて慌てる。
それなのに、そんな私を見たユーリ様は
「わぁ!何もうその顔たまんないんだけど!あぁお腹さえ大きくなければ、いますぐにでもアルマに抱きつきたい!!」
なぜか、テンションを上げられて。
「あぁ、でもジェイドに怒られるから辞めるよ。うん、そうだね、落ち着こう」
そう言って、自身の胸を押さえる。
つられて私も何故か少し冷静になって、2人して胸を押さえて深呼吸する謎の時間が生まれた。
「ふふそれで、どこまで行ったの」
一通り落ち着いて、お茶を飲み朝食を食べ始めると、すでに食べ終えたユーリ様はハーブティーを片手に興味深々だった。
もうここまできたら隠すこともできないだろう?なにせ相手はユーリ様なのだから。
「どこ?」
しかし彼女の問いの意味が分からない私は首を傾ける。
「え、まさか最後まで!?」
驚いたように身を乗り出すユーリ様だけれど、私は
「最後?」
また首を傾けることとなる。なにをもって最後までとなるのか、正直私には分からないのだ。
「うん、最後まで…は違うみたいだねどうやら」
そんな私の反応にユーリ様は何かしらを理解したように頷かれる。
「多分…入り口でもないって」
よく分からないけれど、昨日ジェイドに言われた言葉を反芻してみる。もしかしたらユーリ様にだったら伝わるのかもしれないと思ったのだけど
「え、何?先っちょだけってやつ?よくあいつ我慢できたね」
なんだか余計に驚かれた。
そして私も驚いた
「え?先っちょ?胸の?」
それだけでどこを触られたのかすら分かるのか!?流石ユーリ様…と。
そして
「え…?なにちがうの!?まさか胸止まり?」
拍子抜けしたように問われて、そこで私は余計な事を言ってしまった事に気がついて、赤面する。
私のその反応を肯定と理解したらしいユーリ様は、椅子の背にゆっくりと背中をつけると、ハーブティーを飲みながら
「なるほど、時間をかけて開発するつもりなのね、あいつ」
となにやら楽しそうに呟いた。
「開発?」
首を傾けて説明を求めたわたしに、ユーリ様はパタパタと手を振った。
「うーん、アルマは気にしなくていいよ!あいつに任せとけばいいよ。あ!でも痛かったり嫌なことははっきり言わないとだめだからね!最初が肝心」
そう最後には釘を刺すようにピシリと言われて、なんのことやらわからない私は、
「はぁ」
と曖昧にうなずいた。
「で?現時点でなんか困りごとはある?」
そう問われて
「困りごとですか?」と考える。
何なら全部に困っているのだが…正直的を得た質問ができるかどうかもわからない。強いて言えば
「あの声が…」
そう、声が恥ずかしすぎる事だろうか、我慢しようとしてもどうしても出てしまうし、ジェイドは聞かせろと言う…どうしたら自然に押さえられるのだろうか?
ユーリ様ならば何かコツを知っているのではないかと思ったけれど。
「あぁ、声ね!最初は恥ずかしいよね!大丈夫だよ!すぐ慣れるから」
「慣れ!?」
笑い飛ばされて一蹴されてしまった。
「何ならあちらは喜ぶんだから出せばいいよ!まぁ時々声が出せないシチュエーションてのも燃えるんだけどね!」
「声が…だせない?」
出したくなくても、出てしまうのに、出してはダメって、もはやよくわからない。
そんな私の考えを読み取ったのか、ユーリ様は「気にしないで」と顔の前で手を振ると。
「んーまぁそれは慣れたら楽しめばいいよ!とにかく、恥ずかしがらないで出せばいいよ!」
「そんなっ!」
恥ずかしい!どう頑張っても恥ずかしいのに!そう抗議しようとしたのだけれど。
「まぁその内声なんて気にならなくなるくらいの状況になるから大丈夫っ、いっ!」
そう軽快に笑われて…途中でユーリ様が顔を歪めた。
慌てて私は腰を浮かせる。 
「大丈夫ですか!?」
「あはは、大丈夫!んー最近ちょこちょこ張ったり傷んだりねぇ、どうやらもう産まれる準備に入っているサインなんだってさぁ」
お腹をさすりながら、まだ少し痛そうにそれでも明るく笑うユーリ様は、お腹に向かって「いたた!ついでに蹴らないでよぉ」とどうやらお腹を蹴ってきたお腹の我が子に抗議している。なんだかその姿はとても微笑ましくて、ゆっくり椅子に座り直して朝食を食べる作業に戻る。
「まぁほら、議会も来週までだしねぇ。それ以降まではなんとかお腹にはいてくれると思うし大丈夫だよ」
「そうですか」
流石に生まれたのを秘密にしておく事は不可能だ。もし議会がある内に生まれてしまうと国王も王妃も不在の状況になってしまう。そうなるのはあまりよろしくないようで、どうにかそこまでは引き伸ばしたいというのがユーリ様と先王陛下、ジフロードの考えらしい。
医師の話では、現在の状況で有ればそれまでに産まれてくる可能性は少ないという事らしいので、ユーリ様も気楽にゆったりと構えている。
その時リビングルームをノックする音が響いて、王太后陛下がひょこりとお顔を出した。
王太后陛下と先王陛下は、ユーリ様がお怪我をされた事になってから王妃政務の手伝いといった名目で、今は誰も使っていない西の塔に一時的に滞在してくださっている。
ここ最近、だいたい毎朝この時間に王太后陛下は顔を出して、一緒にお茶をするのが日課になっている。
「ユーリお腹はどう?」
リビングルームに入ってきた王太后陛下は、いつもの私とユーリ様の間の椅子に座ってユーリ様のお腹に手を伸ばすと、そのお腹を愛しそうに撫でた。
「まぁいつも通りだよ」
ユーリ様の返事に「それはいいことね!」と笑った彼女は、次にわたしに視線を移して。
「あらアルマ!今日は珍しいタイプのドレスを着ているのね?」
やはりめざとくドレスに目をつけてきた。
「たまにはいいかと思いまして」
今度は慌てずに上手く微笑むことができた…そう思ったのに
「ふふ、ジェイドとうまく行っているようで何よりだわ」
ごくごく自然に微笑まれて、私はぽかんとして、そしてユーリ様と目が合う。
「まぁ私の母上だからね」
そう言って肩をすくめられてしまった。
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