男装即バレ従者、赤ちゃんを産んだらカタブツ皇帝の溺愛が止まりません!
 どれくらいそうしていただろう。彼が突然、唇同士を触れ合わせたままの口角をフッと綻ばせたと思ったら、苦笑とともにこぼす。
「無粋なやつだな。こういう時は、目を閉じるものだろうに」
「す、すみません!」
 呆れ混じりの指摘を受けて、私は弾かれたように瞼を瞑った。
 一緒に拳もギュッと握って唇を引き結び、閉ざした視覚以外の神経を集中させて、再びの口づけを恐々としながら待った。
 ところが、待てど暮らせど予想した感触は訪れない。
「ハッ! ハハハハハッ!」
 その時、場に不釣り合いな笑い声が耳を打つ。同時に、ずっと私に覆い被さっていた彼の重さも遠ざかる。
 ……え! これって、サイラス様の笑い声!?
 驚いて固く瞑っていた瞼を開くと、私の横でサイラス様が胡坐で座り、声を出して笑っていた。その姿は朗らかで優しげで、これまで彼が見せていた捕食者の荒々しさとはかけ離れたものだった。
 初めて目にした彼の笑みは、私の胸をざわつかせた。
「もういい、今日は興が削がれた。お前はもう行け」
< 58 / 220 >

この作品をシェア

pagetop