お見合い相手から溺愛されて困っています。
「じゃ、あかりさん。定番ですのでご趣味は?」

趣味?
「旅行です。」

「僕も好きです。」

「ご家族は?」

「両親が長野にいます。弟が1人埼玉にいます。」

「僕も両親と弟がいます。」

「好きな食べ物は?」

「なんでも好きです。」

「僕もです。」

話が広がらない。
もう無理だよー。
帰りたい!

「すみません、店長に言われて本日こちらに来ましたが何かの間違いかと思います。桜木さんのような方とは知らずに来てしまいました。大変申し訳ありませんでした。」

私はあらためて立ち上がり頭を下げた。

「私のような人と思わなかった、とは?」

「桜木コーポレーションの副社長という方です。」

「なんだ、そんなこと。じゃ、辞めればいいのかな?」

「!!!」

「弟がいてよかったよ。弟は33だからもうそろそろ大丈夫だし、家に帰ったら副社長をやるように言っとくよ。そのかわり俺降格しちゃうから給料がちょっと下がっちゃうかもしれないけどごめんな。」

「?!」

「そういうことではありません。あなたのようなハイスペックな方と私は釣り合えません。ご縁がなかったんです。」

「ご縁がなかった、なんていわないでよ。」

「…」

「ご縁はあったから今日ここで会えてるんだよ。それなのに会って5分で断るなんてさ…。もう少し俺を見てからにしてよ。」

「貴重な時間をいただいたことは感謝いたしますが、私は正直なところ前向きなお付き合いが出来る方を探しているんです。桜木さんのような方とは釣り合いが取れないことは一目瞭然です。このままお話していても前に進むことはないですよね。桜木さんもお気を遣わせてしまい申し訳ありませんでした。」

「前向きな付き合いならいいんだよね?俺はそのつもりでここに来てるよ。なんならこの後市役所に行ってもいいと思ってここに来たよ。」

市役所ーーー。
何しに行くの?!
まさか…

「桜木さんは会って5分でそんな大切なことを決めるんですか?理解できないです。」

「会って5分じゃないよ。俺は前から君を知ってるよ。」

「?」

「俺はあのカフェの常連だよ。店長とプライベートで付き合えるくらいの常連。だから君のことは毎日のように見ていたんだけど、俺のこと知らなかった?」

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