幼女で領主で聖女様!?名前を奪われ外れスキルと追放されたけど、辺境の地でなりあがる!
 大根だって、形は杭に似ている。リーゼのスキルで硬くすれば、吸血鬼の動きを一度止めるくらいのことはできるだろう。
 右手に大根、左手に包丁を手に、リーゼは食料保管庫を走り出た。

(……もう、失いたくないんだ)

 リーゼにとって、リリンダは大切な家族。大切な家族をひとり放置して、自分だけ助かるなんて考えられない。

「――リリンダと吸血鬼はどっち」

 物音のする方に足を向ける。自分の短い脚が恨めしかった。もっと早く走ることができたら、リリンダを待たせることなかったのに。
 厨房にもうけられている裏口、そのすぐ外で音がした。

「リリンダ!」
「来ちゃダメ!」

 リーゼの存在に気付いた吸血鬼は、リリンダを離しこちらに目を向ける。
 暗闇の中で真っ赤に目が光る。あの時残してきたリリンダの剣は抜かれていて、破れた衣服だけが剣が刺さっていたことを物語っている。

(――あんたなんて、怖くないんだから!)

 それは、リーゼの虚栄だった。
 怖い。脚ががくがく震えている。でも、何もできずに家から追い出されたあの時のままのリーゼではない。

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