志岐さんと夏目くん
優しい微笑みが、私にだけ向けられている。
「だから誘ったんだ。 二人で色んな店を回りながら、あの日みたいに いっぱいいっぱい笑い合えるかもって思ってさ」
「……」
「 志岐さんも俺と同じ気持ちだ、って勝手に思ってた。 本当に勝手にそう思い込んでたんだ。 断られるなんてまったく考えもせずにね」
ふっと視線が外れ……それとほとんど同時に、左手を掴まれた。
そのまま、夏目くんのすぐ横へと引っ張られる。
「……おーい、廊下は走んなって学校で教わるだろー? ここも走んのは禁止だぞー?」
いつもよりも明るい声で言った夏目くんに、小学生低学年くらいの男の子たちが返事をする。
「ごめんなさーいっ!!」
と言いながらも、男の子たちは元気いっぱいに廊下を走っていった。
夏目くんが引っ張ってくれていなかったら、私は彼らのうちの誰かとぶつかっていたかもしれない。
「あ、急に引っ張っちゃってごめんね。 大丈夫だった?」
「うん、ありがとう」
掴まれた手を、そっと握り返す。
離れたくないという思いを……精一杯に乗せながら。