志岐さんと夏目くん
「嫌なら離れていいよ」
「……っ……」
「どうしたの? 寂しがり屋じゃない、って言うのなら離れたら?」
「……きょ、今日の夏目くんは、すっごく意地悪っ……!!」
「アハハ、そうかな? 俺はいつもこんな感じだよ。 ……でもまぁ、確かにちょっとやり過ぎたか」
そう言いながら、夏目くんは二十センチほど距離を開けて座り直した。
「ごめんね。 このくらいの距離ならいい?」
「……うん」
本当はまだかなり近いけど……それでも私は同じ場所に留まり続けた。
そのまま、静かに話す。
「……夏目くん、あのね……」
「うん?」
「……私は、寂しがり屋じゃないよ。 でも……さっきは少しだけ寂しかった。 夏目くんと手が離れたのは……確かに寂しかったよ」
言葉を選びながら、ゆっくり、ゆっくりと。
それでも真っ直ぐに伝えていく。
夏目くんの表情はわからない。
わからないから、怖い。
けど……目を合わせることの方がもっと怖かった。