志岐さんと夏目くん


「嫌なら離れていいよ」

「……っ……」

「どうしたの? 寂しがり屋じゃない、って言うのなら離れたら?」


「……きょ、今日の夏目くんは、すっごく意地悪っ……!!」

「アハハ、そうかな? 俺はいつもこんな感じだよ。 ……でもまぁ、確かにちょっとやり過ぎたか」



そう言いながら、夏目くんは二十センチほど距離を開けて座り直した。



「ごめんね。 このくらいの距離ならいい?」

「……うん」



本当はまだかなり近いけど……それでも私は同じ場所に留まり続けた。

そのまま、静かに話す。



「……夏目くん、あのね……」

「うん?」

「……私は、寂しがり屋じゃないよ。 でも……さっきは少しだけ寂しかった。 夏目くんと手が離れたのは……確かに寂しかったよ」



言葉を選びながら、ゆっくり、ゆっくりと。

それでも真っ直ぐに伝えていく。


夏目くんの表情はわからない。

わからないから、怖い。

けど……目を合わせることの方がもっと怖かった。


< 76 / 133 >

この作品をシェア

pagetop