誰を?何を?見ているの?

☆☆待ち合わせ


先生方に挨拶をして外に出ると
薫が、緊張気味に立っていた。

「ごめん。待った?」
と、言うと首を振りながら
「嫌。大丈夫。
  彩葉の方は大丈夫?」
「うん。大丈夫だと思う。」
私が、患者さんを優先することを
知っている薫。
緊急の連絡がきても
飛んでく行く····のも知っている。

「じゃ、行こう。」
と、手を出す薫に
ん?と思っていると
手を繋がれて、引っ張られる。

ええっ、誰がいるかも
と、思うが······

薫の手が温かくて·····

「もう、一時も離れたくないんだ。」
と、言いながら
薫は、歩を進めていく。
「うん。私も。」
と、薫の手をギュッと握り返して
薫にそのままの気持ちを伝えると

はっと、薫が振り返り

私をみたから、笑ってみせると
顔を赤らめて前を向く薫に
笑いが漏れる。

薫は、食事ができるお店に
つれてきてくれた。
「へぇ、こんな所があるんだ。」
「事務室の中で話しているのを
聞いて、彩葉と行こうと思っていたんだ。」
と、ニコニコしながら話す薫。

夫婦の時は、穏やかな食事は
していたが
こんな風に話しながら
なんて事はなかった。

薫は、あれからの事を
簡単に話してくれた。
もちろん、私も話した。

こんなことなら離婚しなければ
と、思うが·····

あの道を通らなければ·····
あの辛い、悲しみを
対面しなければ·······

私達は、こんな風には、
なっていなかった···と
二人とも感じていた。

二人で楽しい、美味しい
食事をしてからお店をでる。

黙ったままでも
二人で手を繋ぐ

恋人同士からの結婚では
なかった、私達······

薫の理不尽とも言える
願いからの結婚だった。

だが、私は、もしかしたら
薫の兄を思う気持ち
会社の社員を
そしてその家族を思う気持ちを感じ
薫が、本当にあの時の言葉を
悔やんでいることがわかって
私は、薫に対して愛情があったの
ではないか、と。

だから·····

こんなにも素直な気持ちで
薫を受け入れられるのだと思う。

だから·····

「薫が、好きだよ。
多分、貴方からの結婚を
受けた時から。」
横を歩く薫の顔を見るのは
恥ずかしかったから
前を向いたまま伝える。

薫の手がビクッとなり
すぐにギュッと握られる。

「俺も、彩葉が好き。
いや、もう二度と失いたくない
二度と離れたくないほど
愛してる。」
と、言うと
私をそっと抱き締めた。

私も薫の背中に手を回し
薫を抱き締めかえす。

私達は、別々に家に帰る選択肢を
みつけだせず
ここから近い、薫のマンションへと
歩を進めた。
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