祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
「死者を生き返らせる魔法はない、ってマクリーン様はおっしゃっていたわ」
 が、ユーリーが即座にそれを否定した。
「あたし、その頃に母を亡くしていて、魔法で母に会えないか、マクリーン様に聞いたことがあるの。ない、が答だった。輪廻の輪に還ろうとする魂を無理に引き留めたら悪霊になってしまうよ、って諭されたわ」
「じゃあ、これは?」
 尋ねたのはルチェだった。手は兄からの手紙を気味悪そうにつまんでいる。
「レイシアで、死体が動き回ってる、って」
「ホルドトは死体を甦らせたよ。でも……そうだな、魂なんかなかった。ホルドトの命令を聞くだけの操り人形だった。中には腐りかけたやつも……」
 そこでナーザは口を噤んだ。たぶん、妹に陰惨な絵を想像させたくなかったのだろう。
 が、ルチェはそれを聞いて、ぱっと顔を明るくした。
「じゃ、魔法で甦るのは、死者じゃなくて、死体なんだ! それなら、大丈夫じゃない? 雷帝って、二百年も前に死んじゃったんでしょ? 死体なんか残ってないよ。やっぱりお兄ちゃんのことなんじゃない?」
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