聖女の汚名返上いたします!私は悪徳大魔女ですが?
 この待遇の発端となった前を歩く男に視線を戻す。広い肩幅、すっと伸びた背筋は背後のシャルロッテの存在をあっさり覆い隠す。

 通りかかる城の者は、律儀に道を開けフィオンに頭を下げた。それは彼の身分云々というより人柄もあるのだろう。

 軽く笑顔で答えるフィオンに若い女性の使用人は嬉しそうだ。対照的に彼らはフィオンのうしろにいる存在にはやや怪訝な表情になる。

「あれって、前に噂になっていた魔女でしょ?」

「なんでもフィオン第一分団長が対峙して言うことを聞かせたらしい」

「さすが。やっぱりラルフ王子が信頼しているだけあるわね」

 こそこそと城の者たちが話す内容に、シャルロッテは青筋を立てた。

 なんでこの男の手柄になってるわけ? そもそも話の中心がそっち!?

 もっと自分に対する俗言はないのか。結果的にフィオンの評判を上々させただけなのは気に食わない。

 そもそもこの男の自分に対する態度は、エーデルシュタイン騎士団の第一分団長としてはどう考えても失格だ。

 しかし結果的にはフィオンの思惑通りになっているので、彼のうしろでシャルロッテは静かに闘志を燃やした。

 私だって道を歩くだけで誰もが恐れ平伏す魔女になってみせるから!

 フィオンが頭を下げられている理由とはまったく逆だ。

「なにか強い敵意を飛ばされているのは気のせいかな?」

 フィオンが振り返り、困惑気味にシャルロッテに問いかけた。シャルロッテは不敵に笑う。
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