生まれ変わったら愛されたい〜元引きこもりニートの理想の異世界転生〜
「八重さん、お参りに来たよ。一年もご無沙汰してごめんね」

波瑠は、墓石に水をかけ、雑多に生えた草をむしってから墓前に花を供えた。

八重さんの死を受け入れられなかった波瑠は、この一年、益々引きこもりに拍車をかけていて、ずっと家に引きこもっていた。

その上、とある感染症の流行で、街に緊急事態宣言が発動されており、趣味の温泉にすら行くことが出来なくなったことが拍車をかけた。

引きこもりニートであった波瑠にとっては、自宅が仕事場(○チューバー)であり拠点であったため、その事自体は大きな問題ではなかったが、リモートワーク推進のために両親が自宅に戻ってくる機会が増えたことは不幸としか言えなかった。

自由がきかないことへの八つ当たりをされ、役立たずの波瑠のことは”根暗ニート”となじる。

繰り返される夫婦げんかの怒鳴り声が、ささやかな幸せである波瑠の安眠の邪魔をして次第に眠れなくなっていった。

実家を出る資金も気力もない波瑠は、八重さんという支えを失い、次第に心を病んでいった。

だが、今日は一念発起して家を飛び出してみたのだ。

八重さんならきっと“頑張ったね”と褒めてくれるだろう。

墓の掃除を終えて、墓前に花と線香を供えた波瑠は、ボーッと墓石の左右に置いていた狛犬を見つめた。

あまりの暑さに、波瑠のこめかみや体幹を伝って汗が滴り落ちていく。

ゆらゆらと揺れる陽炎が幻影を見せる。

「八重さん、引きこもりニートが行動を起こしてここに来たよ。神社にもお参りしたしこんな私でもちょっとした幸せが訪れるかな?」

墓石に備え付けている手のひらサイズの阿吽の狛犬は、八重さんの死後、波瑠が骨董品屋で買い求めて置いた物だ。

波瑠はそっと、口の開いた間抜け顔の阿形の狛犬を手のひらに載せた。

「・・・でもね、もう私この世界では正直限界なんだよね。あの二人(両親)とはどう頑張っても上手くやっていけそうにないもの」

黒いマスクとフードの間から覗くブラウンの瞳から一筋の涙が溢れる。

「贅沢なんて言わない。八重さんの側に行きたい。そして早く生まれ変わって誰かに愛されたいよ。お返しに私もうんと誰かを愛し返したい」

ポロポロと溢れ出した涙が手のひらの阿形に当たった。

その時、墓石の前に置いたままであった、阿形の片割れの吽形の目が光った気がした。

「えっ?何?」

その瞬間、白い光に包まれた波瑠の体にグウンと重力がかかる。

”落ちる!“

慌てて阿形を握りしめた波瑠が次に目覚めたのは、あのカビ臭い部屋の、ギシギシ軋むベッドの上だった。

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