私に恋を教えてください
そんなことを言う谷口も須藤とは同僚であったこともあり、社内事情には詳しい。
そして彼女こそが、以前須藤と同じ時間を何度も過ごした彼女でもあった。

もちろん柚葉はそんなことは知らないが、須藤と谷口の間に流れる、親密な空気を察して少し怯んでいたのだ。

谷口由布(たちぐちゆう)です。以前こちらの会社に居たのだけど、うちの社長が独立する時に一緒に会社を出たの」
由布は、柔らかな笑顔を浮かべる。
そして柚葉に名刺を差し出した。

「今は秘書?」
「スケジュール管理もしているけれど、アシスタントマネージャーをしているの。小さな会社ですもの、なんでも自分達でやるのよ」
「榊原柚葉です」
柚葉も名刺を差し出す。
由布はそれをきれいな仕草で受け取った。

「柚葉ちゃん、可愛い名前ね」
「ありがとうございます」

大人で綺麗で須藤を知っている人。
そして柚葉の知らない須藤を知っている人だ。

柚葉はきゅうっと胸が抑えられるように苦しくなった。
仕事もよく出来そうで、自分なんかよりも須藤の横に立って何倍もお似合いの人だ。

そんなことは分かっている。
須藤はいくつも歳上なのだし、柚葉にはまだ知らない過去もあって当然なのだ。
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