私に恋を教えてください
侑也は、ふっと笑って、自分の車に乗った。
「仕事は終わったよ。じゃあ、また、会社で」
じゃあね、と車で去っていく侑也を見送る。

柚葉はその場を動くことが出来なかった。
「少しだけ、待っていて。車を持ってくる」
「はい」

こんなことあるんだ、と思うのだ。
声も手の大きさも何もかもが好きで、声を聞いただけで動けなくなる。

待ってくださいと侑也に告げたその声が少し息切れしていて、慌てて走ってきてくれたのだと分かった。

身動きすら奪われるくらいに、どうしたらいいか分からない。
この気持ちを名付けるのならば、恋、でしかないんだろうと思った。

柚葉は須藤に『私に恋を教えてください』と言った。

須藤はその約束を果たして、その先もあると柚葉に伝えていた。
『これから、勉強しよう』と言って。

海からの風がさらりと柚葉を撫でていく。
「榊原さん」
後ろから聞こえたのは、少し低めの落ち着いた声だ。
柚葉はゆっくり振り返った。

そこには思った通りの大人で綺麗な由布が微笑んでいる。
「帰らないの?」
「帰ります。彼を待っているんです」
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