今は秘書の時間ではありません
ドアの向こうから嗚咽が漏れ聞こえてきた。

俺はなんてことをしてしまったんだろう。

まるで秘書としてではなく女として好意があるから残って欲しいと言ったようなもんじゃないか。

秘書を馬鹿にしているわけではないのに。
ましてや彼女の仕事ぶりは優秀できめ細やかなのに。
それを誉めることなく下げずんだような形になってしまった。
絶対誤解してる!

そうわかるがもう遅い。
ドアの向こうから聞こえる嗚咽に俺の胸は締め付けられるようだ。

彼女は目に見えない縁の下の力持ちだ。

さりげない気配りでみんなの士気を高める。

絶妙なコミュニケーションで円滑に話を進める。
 
欲しいな、と思うような資料が言わなくても気がつくとファイルの中に紛れ込ませてある。

他者とのやり取りも俺には言わないが彼女の配慮で相手が気持ちよく過ごせるよう考えられている。
いつだったかも相手から、毎回違うお菓子が用意されているが毎回自分の好きなものがある、と言われた。なのに飲み物は自分が考えないような組み合わせを絶妙にしてくるからいつも楽しみなんです、と言われビックリした。
そもそもお菓子なんてその時々で適当にあるものを出しているもんだと思ってた。
お茶なんてもっと適当で和菓子だから日本茶、洋菓子ならコーヒー、くらいにしか思っていなかった。
相手の好きなものやちょっと面白みのある組み合わせにしてるなんて考えても見なかった。

どの社員も彼女の仕事の真面目なところの中にあるお茶目さに惹かれるのだろう。

人として、惹かれるのだろう。
彼女を悪くいう人がいないのはそういうことなのだろう。


なのに俺は今、ドアの向こうで嗚咽を漏らさせてしまった。
泣かせてしまった…。
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