今は秘書の時間ではありません
俺たちはクルーズ船から手を繋ぎ下船した。

駐車場へ戻るが手を離せない。

また車の中で唇を合わせた。

一樹は私の唇の感触を確かめるように角度を変え、時には唇を吸うようにキスしてくる。
私の吐息が漏れた時にすかさず舌が私の中に入ってきた。
一樹の舌は私が受け入れるのかを確認するかのようにゆっくりと歯の裏側をなぞってくる。 
引っ込めてしまった私の舌を絡めてくる。
いやらしい音が車の中にこもる。
自分たちの出したその音にまたゾクゾクとしてしまう。
一樹は口の中を舐め回したあと、また唇へキスを落とす。額へ、こめかみへ、目元へ、鼻へ、首筋へ…と徐々に降りてくる。
甘く優しいキスに私は胸が締めつけられる。
指を絡めたまま、狭い車の中でどれだけキスしていたのだろう…

「ごめん、どれだけキスしても紗奈が好きすぎて止まらなくなった。これ以上はダメだ。ごめん。」

「私も好き…。」

私は絡めたままの指を離せずにいた。

「紗奈…俺の家に連れて帰っちゃダメ?」

「私が決めるの?」

「俺は紗奈から離れられない。連れて帰りたい。」

「うん。連れて行って…。」

一樹はゆっくりと手を離しエンジンをかけた。

車は駐車場を出て高速に乗る。
夜は空いており1時間もかからず都内のマンションへ帰り着いた。

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