どうにもこうにも~出会い編~
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 私たちは言葉を交わすことなく駅へと向かって歩いていた。西島さんを思うと、心臓をぎゅっと掴まれたように胸が苦しくて切ない。こんな激しい感情は、今までに抱いたことがない。ああ、私は西島さんが好きなのだと思った。こらえきれず涙が溢れた。悟られまいと彼の少し後ろを歩いていたけど、鼻水をすする音に彼は振り返った。

「石原さん?」

 私は不安げに彼を見上げた。あたりはすっかり夕暮れ時で、西島さんの顔も夕日で赤く染まっていた。

「私はずっと我慢してきたのに、そんな顔をされてはもう…」

 彼はガシガシと頭をかいて目を伏せた。

「自惚れないようにとずっと自分に言い聞かせていました。こんなことを自分から聞くのも甚だ自意識過剰なようで嫌ですが…あなたは、私のことを好いているのでしょうか。男として」

 私を真っ直ぐ見つめる彼の目は、一寸のぶれもなく真剣そのもので、私は目をそらすことができなかった。私は彼の問いに首を横に振ることはできないと思った。混沌とした頭の中で、私ははっきりとわかってしまった。私は目の前に立っているこの男の人が好きなのだと。私は控えめに頷いた。

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