若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 その部屋では、絢斗さんが三人掛けのソファに座ってコーヒーを飲んでおり、私たちの姿に気づくとカップをソーサーに置いて立ち上がった。

 ゆったりと優雅な和装姿は美しくて、心臓がトクンと鳴った。

 Tシャツにジーンズの男性を見慣れているせいよ、と自分に言い聞かせる。

「どうぞ、若旦那さまのお隣におかけください。ただいま飲み物をお持ちいたします。なにがよろしいでしょうか?」

「え……っと、彼と同じもので」

「かしこまりました」

 いつの間にかいた制服姿の女性に多田さんは頷き、彼女が出ていく。

「ご依頼のものを用意してまいります」

 そう言って、多田さんも部屋を出ていった。

「病院は問題なかったか?」

「特には」

「で、昼メシはファストフード?」

「えっ? 翠子さんから聞いて?」

 ズバリ当てられて、目を丸くして尋ねる私に、絢斗さんは真面目な顔で首を左右に振る。

「いや、油っぽい匂いがする」

 私はカットソーの袖に鼻を近づけてクンクン嗅ぐ。
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