若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「そんなに驚くなよ」

「だって……」

「澪緒の育った環境ではこうじゃないのか? じゃあ、戻りは夜になる」

 絢斗さんは私の頭にポンポンと軽く手を置いて、門扉を開けて出ていった。外に黒塗りの車が見えた。

 またキスするなんて……。

 ロスではこんな風景は見慣れていたけれど……これではまるで夫婦みたいだ。



「――緒さん? 澪緒さん、聞いていますか?」

 おばあさまの声でハッとなる。

 そうだ。今はおばあさまに華道を習っているところだった。

 今朝の見送りのシーンが頭から離れなくて、つい意識を飛ばしてしまった。

「申し訳ありません。若旦那さまが無事に京都に着いたか考えてしまいました」

 対面にいるおばあさまは花鋏をテーブルの上に置いて厳しい目で私を見遣る。

「絢斗さんがいくら素敵でも、今はお稽古の最中ですよ。もっとこちらに集中しなさい。うつつを抜かしてはなりません」

 うつつを抜かす……?

 意味がわからなくても、私が集中しなかったから怒っているのはわかる。

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