若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 商談ルームで反巻きの練習をしていると、直治常務と話をする絢斗さんの声が聞こえてきた。

 帰ってきたんだ。

 出迎えるべきなのか迷っているうちにふたりの声がしなくなり、絢斗さんが社長室へ入ったのだとわかった。

 昼食は遅番と交代で、島谷さんと香川さんの三人で休憩室でお弁当を食べる。

 お弁当は芳子さんが作って、お昼前に江古田さんが持ってきてくれる。

 昼食後、商談ルームで着物の種類や織りの勉強をしていたら直治常務が現れた。

「若奥さま、社長がお呼びです」

 直治常務だけが絢斗さんを社長と呼ぶ。

「はい。ありがとうございます」

 直治常務が忙しそうに去っていき、私は椅子からすっくと立ち、髪が乱れていないか頭に手をやりハッとする。

 身だしなみをいちいち気にしちゃうなんて……。

 男性を信用していない私が、絢斗さんに関しては心を許し始めているのだと気づかされる。

 商談ルームをそそくさと出て、社長室のドアをノックする。

「どうぞ」

 中から絢斗さんの低すぎない魅力的な声がして、ドアを開けた。
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