若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「八時二十分だ」

「よかった……」

 遅刻をしたらおばあさまに嫌みを言われそうだ。

「ところでおばあさまと話をしたと聞いた」

「はい。いつもあんなに怖いんですか?」

「慣れればそんなことはないと思うが。これは?」

 絢斗さんが視線を落としたのは、私が部屋の隅に置いた本だ。

「読めと言われたので。あなたのお嫁さんになるのはものすごーく大変なんですが?」

「だろうな」

 一笑に付されて、ムッと口をへの字にさせる。

「……このままでロスに帰るのは女がすたりますから、やれるだけやります」

「女がすたるって、わかっているのか」

「母がここで逃げたら女がすたるってよく言っていたので」

「お母さんは女手ひとつで苦労をしたようだな」

「苦労したのは……」

 仕事が軌道に乗る前と、恋人に騙されてからだ。だけど、話すことではない。

「五分前ですね。お腹が空きました。行きましょう」

 パーティーで食事をしたけれど、着物を着ていてはやはりたくさん食べられるものではなく、今はお腹が鳴りそうなくらい空いていた。

 彼に案内されたのは一階の中廊下の先にあるダイニングルームだった。部屋の造りは和風だけど、雑誌で見たようなモダンな家具がセンスよく配置されている。

 椅子があるテーブルに、私はホッと安堵する。

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