エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。

 早くこの場から解放されたくとも、背後からガッチリと肩を抱き寄せられているお陰で、身動ぎすら難しい。

 そこへ、本来の用件を思いだしたらしい加納の声が私の元に届いた。

「あっ、そうだ。すっかり忘れてた。高梨、来月のセミナー受けるだろ? 定員に限りがあるから、念の為、どうするかの最終確認とろうと思って」

 そういえば、今年度の院内のイベントごとの幹事の役回りが当たっている加納は、どうやらセミナーの申し込みの件での確認のために私のことを呼び止めただけだったらしい。

 そんなことだろうとは思ったんだ。

 そうでもない限り、帰りがけに脳外に属する加納が私のことをわざわざ呼び止めることなんて、これまで一度もなかったのだから。

 滅多にないことだったのに、何やら可笑しな状況になってしまい、加納も災難だなぁ。

 勿論、自分も含めて。そんなことを思いながら、加納に返答を返していたのだが……。

「あぁ、うん、勿論。お願いできる?」

「……俺も受ける」

「「ーーへ!?」」

 いつもセミナーなんて、特に重要なものでない限りは、『あんなクソつまんねー話なんて聞いてられるかよ』そう言って、真面目な加納が要点だけをまとめているレポートに目を通すだけだったはずの、窪塚らしからぬ申し入れに、驚きを隠せなかった私は、思わずマヌケな声を上げてしまっていた。

 私同様に、驚きを隠せないでいる加納も窪塚のことをびっくり眼で二度見し、放ったその声が私のそれとハモってしまったくらいだ。
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