エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。

 ーーあーあ、もう着いちゃった。

 それに本当は、樹先生の学会の準備の関連で当分は忙しくなるらしい窪塚と、今日は日曜日だし、あともう少しだけ、休日を一緒にのんびり過ごしたかったのになぁ。

 そんなことをボンヤリと考えてしまっていたら、不意に窪塚から声をかけられて、私はそこでようやくハッとすることになった。

「……おーい。どうした? さっきからボーッとして。どっか体調でも悪いのか?」

 一月前のタクシーで交わされたものと大差ない窪塚からの言葉に。

 一月前と何ら変わらない、ただのセフレの関係でしかない窪塚との関係性が、もしかしたらずっとこのままなのかもしれないーー。

 昨日決心したばかりだというのに、未だ、何も言い出せないでいることから、ネガティブな考えばかりが浮かんできてしまう。

 それをなんとか膝上のバッグの柄をぎゅっと両手で握り締めることで堪えて、慎重に言葉を選びつつ放った私の声は、自分でも驚くくらいシュンと気落ちしたものだった。

「……ううん、なんでもない。それより、わざわざ送ってくれて、どうもありがとう。でももう、ここまでで大丈夫だから。気をつけて帰ってね。それじゃあ」
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