エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
突然の父親の出現によりフリーズしたままだった私は、窪塚からの問いかけにより、我を取り戻すことができたのだが。
「おい、高梨? お前、顔が真っ青になってっけど、大丈夫なのか?」
まさか、こんな場面で、父と遭遇することになろうとは夢にも思わなかったものだから、おそらく現実逃避でもしようと思っていたのだろう。
私は無意識のうちに、窓一枚隔てた向こう側に立っている父から目を背けて、窪塚のほうに顔を向けていたようだった。
ようやくハッとし、そのことに気付いたところで、窪塚の指摘になど応えるような余裕なんてものは全くない。
そんなことよりも、兎に角、さっき目にした父の姿が、夢か幻か、はたまた何かの間違いであるかの確認をするべく、恐る恐る車掌へと今一度目を向けてみるも。
当然、夢や幻でも、勿論、何かの間違いでもなく。
私と同じで、驚愕の表情でこちらを凝視したまま立ち尽くしている父の姿がそこにはあって、バチッと視線がかち合ってしまったので、このまま気付かないフリを決め込む訳にはいかないようだ。
その傍には、不思議そうに父の様子を窺っている母の姿も見て取れる。
おそらく、実家である伯父の家に、何かの用事(たった今思い出したが、無断外泊をしてしまった私のことに違いない)で両親そろって出向いていたのだろう。
告白のことで頭を占拠されていたせいで、伯父への連絡を失念してしまってたことを、今更ながらに後悔したところで、もう遅い。
ーーもう、これは、諦めるしかないようだ。