エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。

 私が飽きもせずにそんな呑気なことを考えていたタイミングで、私の手を包み込んでくれている窪塚の手にぐっと力がこめられた。

 そしてすぐに、思い切るようにして放たれた窪塚の声音が重苦しい沈黙を破ったのだが。

「あの、私から説明させていただいてもよろしいでしょうか?」

 その刹那、険しい表情をした父の冷たい眼差しがより冷ややかなものとなり、眼光鋭く刺すような視線と、淡々と抑揚のない冷ややかな声音とが窪塚に向けられてしまうことになり。

「結構です。まずは娘である鈴の口から聞きたいので」
「……そうですか。すみません」

 いつも強引な窪塚もさすがに食い下がることができなかったようだ。

そこへ、今度は私に向けて放たれた父の声が耳に届いて。

「鈴。どういうことか、パパとママに分かるように説明してくれるかい?」

 以外にも、その声が普段通りのものだったことから、かえって余計に、窪塚に対する怒りと嫌悪感がヒシヒシと伝わってくる。

 普段は、一企業の社長として務めているだけあって、頼りになるし、性格も穏やかだし。

 私の知る限りでは、誰に対しても物腰だって柔らかで、見た目だって、娘の私から見ても結構イケてると思う。

 極度の心配性さえなければ、自慢の父親だ。

 それが、いくら無断外泊したとはいえ、普段の父からするとえらい変わり様だ。

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