エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
思いがけず、樹先生の言葉のお陰で、ようやく覚悟を決めることができたのだが……。
そんな俺のことを嘲笑うかのような出来事がすぐそこまで迫っていたのだった。
この日からちょうど五日後の学会前日の夜。
明日の学会が終われば、やっと高梨とのことに専念できる。
そう思うと、自然と俺の心も足取りも軽くなっていて、何もかもが上手くいきそうな、そんな予感さえしていた。
その日は、久々に早く帰れそうだというのに、朝からあいにくの雨模様で、昼間には小ぶりになっていた雨あしが日暮れと共に激しさを増していて。
午後八時を過ぎた頃、俺が職場である光石総合病院の職員専用の通用口にさしかかる頃には、バケツの水をひっくり返したような土砂降りになっていた。
幸いにも傘は持ってはいたが、病院の裏手にある駐車場の車まで辿り着くまでに濡れるのを憂鬱に思いつつ、傘をさそうとしていたときのことだ。
通用口のすぐ目の前の植栽の傍にゆっくり近づいてきた一台の車が停車して、通用口のすぐ脇の駐輪場から車の方へ傘をさした女性が歩み寄る姿が外灯により照らし出された。
そして、その女性が高梨だと視認できたと同時に車まで辿り着いた高梨が放った声と。
「ごめーん。待たせちゃったね」
「俺が誘ったんだし、気にしなくていいよ。それより濡れるから早く乗りなよ」
「うん。ありがとう」
高梨に向けて放たれた藤堂の声を耳が拾った刹那、驚きのあまりとっさに俺は身を隠すようにして、通用口の壁伝いに背中を預けたまま呆然と立ち尽くしてしまっていて。
高梨を乗せた藤堂の車が走り去ってからも、俺はしばらくの間そこから動けずにいた。