エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
緊張感が一気に増してきて、なんともいたたまれない心持ちになってくる。
俺は、それらを払拭するためにも、まだ半分ほど残っていた無色透明の冷たい液体を豪快に喉に流し込んだ。
そうして空になったグラスをコースターに戻すと同時に。
「……考えてみたらさぁ。俺、昔っから窪塚には何一つ勝てた試しがなかったんだよなぁ」
なにやら懐かしむようにしてバーテンがシェーカーを振る様を眺めていた藤堂が、ふっと自嘲の笑みを浮かべて唐突にそんなことを言ってきた。
俺は、てっきり高梨のことを言ってくるものとばかり思っていたために、なんだか肩透かしを食らったような気分だ。
「……なんだよ……唐突に」
思わずそう返してしまったのだが、さっきの言葉が前振りだったんだということに、次に放たれた藤堂の言葉により気づくこととなる。
「俺、医大生の頃に高梨と付き合ってただろ? 実はさぁ。あれ、お前が高梨のことずっと目で追ってることに気づいてて。それで、周りに『付き合っちゃえば』って言われたとき、真っ先にお前の顔が浮かんでさぁ。高梨と付き合ったらお前に勝てる。そう思っちゃったんだよね。驚いただろ?」
驚くと同時に、そんなくだらないことのために、高梨のことを利用した藤堂に対して、腹が立って腹が立ってどうしようもなかった。
勿論、その元凶になってしまった自分自身に対してもだ。
「おまっ、ふざけんなッ!!」
電光石火、気づけば俺は、ここが店の中だというのも忘れて瞬時に立ち上がり、隣の藤堂のことをぶん殴る勢で、胸倉を引っ掴んで怒号を放ってしまっていて。
その声に遅れること数秒、俺が置いたままだったグラスが床に落ちてガッシャーンと粉々に砕け散る派手な音が周囲に響きわかった。