エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
途端に、賑わいでいた店内から喧噪が消え去り、近くのテーブル席の若い女性客の一人がグラスが割れた音に驚いたように、「キャッ」と甲高い声を放ったのを皮切りに、店内の至る所からは俺らのことを遠巻きに窺いながら潜めた声で話す声がザワザワとひしめき始め。
「あのう、お客様。他のお客様のご迷惑になりますのでーー」
すかさずカウンター内のバーテンからもそう言って声がかかった。
けれど頭に血が上っている俺には、もうそんなものに耳を貸しているようなそんな心のゆとりなどまったくなく。
冷静を欠いていた俺は、藤堂のことを殴り飛ばす気満々だった。
それなのに、藤堂ときたら、胸ぐらを掴んで睨みつけている俺には目もくれず、バーテンに向けて、にかっと人懐っこい笑みを浮かべて。
「あー、すみません。割っちゃったグラスもちゃんと弁償しますので、勿論割ったこいつが。だからちょっとだけ待っててもらえますか? 俺、昔こいつに大きな借り作っちゃってるんで。それ返すまで、少しだけでいいんでお願いします。心配しなくてもこいつ、図体が大きいだけで人を殴るような度胸なんてないんで。ね?」
ヌケヌケとそんなことを抜かしやがった。