エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
そりゃあ、そうだ。
あの夜、窪塚に自分から話しかけたことも、どうして窪塚とラブの付くホテルになんか行くことになったのかも、処女を失った瞬間のことさえも、あたかも頭から抜け落ちでもしたかのかというくらい残ってはいないのだから、当然だ。
私のことだ。きっと、いいや絶対に。とんでもないことをやらかしてしまっているに決まってる。
だからこそ、記憶が残ってないに違いない。
否、だからって、聞かないことには先に進めないというのはよくわかっている。
よくわかってはいるのだけれど、もう少しだけでいいから、気持ちを落ち着かせるための時間が欲しい。
でないと、たて続けに聞かされてしまったら、処理しきれずに、今度こそオーバーヒートを起こしてしまう。
「ちょっ、ちょっと待って。ちゃんと聞くから、少しだけ待って。頭ん中がぐちゃぐちゃなの。お願い、待って。窪塚」
眼前の窪塚に向けて、なんとかそう言って懇願するのが精一杯だった。
そんないつになく弱気な私のことを窪塚は、ハッとしたような表情で見やってすぐ、何を思ったのかいきなり私のことを広くてあたたかな胸へと抱き寄せると。
「悪い。お前のこと一番に気遣ってやらなきゃいけねーのに。俺、自分のことで精一杯で。ほんとに悪かった。けど、もう九年近くも待ったんだ。ここまで来たらもう何年だって待つ。だから安心して欲しい」
さっきまでの勢いはどこに行ってしまったのかと思うほどに、途端にシュンとしてしまった窪塚のやけに弱気な声音が抱き寄せてくれている広い胸からあたたかなぬくもりと一緒に伝わってくる。
それらと一緒に、窪塚の私のことを想ってくれている気持ちまでもがひしひしと伝わってくるようだ。