堂くん、言わないで。
ようやく追いついたとき、わたしの息は絶え絶えで。
「あ、あの……ごほっ……道を、おしえて、ください……」
はぁはぁと呼吸を乱しながら、その──男の人の袖をつかむ。
そのときやっと、くるりと振りかえってくれた。
どうやら音楽を聴いていたらしい。
イヤホンを耳から外す。
「なんか言った?」
わたしよりずっと高い位置から見おろされるその顔に、じわりと既視感を覚える。
どこかで見たことあるような顔……
「……あっ!堂くんと、」
すこし前。歓楽街で堂くんと一緒にいた人だ。
なにやらモメてた様子の、あの男の人。
あのときは遠くてわからなかったけど、あらためて見るとかなり綺麗な顔立ちをしている。
明るい髪色に、涼しげな目元。
纏うオーラは余裕に満ちあふれていて、でもどこか危うげだった。
「きみ、誰だっけ?」
男の人がゆるりと首をかしげる。
考える仕草もなんだか様になっていた。