堂くん、言わないで。


ようやく追いついたとき、わたしの息は絶え絶えで。



「あ、あの……ごほっ……道を、おしえて、ください……」


はぁはぁと呼吸を乱しながら、その──男の人の袖をつかむ。


そのときやっと、くるりと振りかえってくれた。


どうやら音楽を聴いていたらしい。

イヤホンを耳から外す。



「なんか言った?」


わたしよりずっと高い位置から見おろされるその顔に、じわりと既視感を覚える。


どこかで見たことあるような顔……




「……あっ!堂くんと、」


すこし前。歓楽街で堂くんと一緒にいた人だ。

なにやらモメてた様子の、あの男の人。


あのときは遠くてわからなかったけど、あらためて見るとかなり綺麗な顔立ちをしている。


明るい髪色に、涼しげな目元。

纏うオーラは余裕に満ちあふれていて、でもどこか危うげだった。



「きみ、誰だっけ?」


男の人がゆるりと首をかしげる。

考える仕草もなんだか様になっていた。


< 178 / 257 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop