堂くん、言わないで。
「ユカちゃん?カレンのとこのカリンちゃん?あ、サキちゃんか」
ぽんぽん出てくる女の子の名前にたじろぐ。
「い、いえ……わたしはみくるです」
「ミクちゃん?」
「みく“る”、です」
「ミクルちゃん。そんな名前のこと繋がりあったっけな~……ごめんね、思い出せねーや」
もちろん思い出せなくて当たり前だと思う。
わたしが一方的にこの人を知っていたのであって、彼とは初対面だった。
すこし迷って、あの日、堂くんと一緒にいたところを見たと話した。
偶然というニュアンスで話したけど正確には盗み見だ。
話し終わって顔をあげたとき、
……わたしは思わずぞくりとした。
彼の顔から表情が消えていた。
でもそれも一瞬、見間違えだったのかもと思うほどで。
すぐに人なつっこい笑みを浮かべてこう言った。
「ああ、兄貴の知り合いね」
「…………アニキ?」
「そう。兄貴」
にこりと笑う彼の目元には、やはり既視感があった。
すっきりとした瞼から覗くのは
夜明けを思わせる瞳────
「俺の名前は堂遼花。恭花の弟だよ」
よろしくね、と笑ってみせた彼は。
あのとき堂くんを振り払った手を、ためらいもなく、すっと差し出したのだった。