不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
「職場では旧姓の山城で通しております。GMには、昨日も申し上げたはずですが」
感情を悟られぬよう、できるかぎり素っ気なく、抑揚のない声で物申した。
もちろん、相手がこの男でなければこんな棘のある言い方はしないけれど、彼も私を煽るために敢えて【藤嶋】と呼んだことをわかっているので、応戦せずにはいられなかった。
「昨日という言い方は好ましくないな。正確には〝昨夜〟だろ? それに頭ではわかっていても、自分の妻を他人行儀に旧姓で呼ぶのは違和感がある」
「そうですか? 私は逆に山城として二十七年生きてきたので、全然・全く・これっぽっちも違和感はありませんし、むしろ旧姓で呼ばれたほうが落ち着きます」
自分でも可愛げがないというか、くだらない言葉遊びをしていることはわかってる。
でも、不満を顔に浮かべた私とは反対に彼……灯(ともり)はいつだって余裕を崩さないから、年甲斐もなく、ついムキになってしまうんだ。
「もしかして、俺が今日も仕事で帰りが遅くなることを怒ってるのか?」
「はい? どうして今、そんな話になるんです? っていうか、そんなことで私が怒るわけないじゃないですか」
「ふぅん、それは残念。でも、赤の他人が今の会話を聞いたら、仲睦まじい新婚夫婦の犬も食わない痴話喧嘩にしか聞こえないんじゃないか?」
壁に手をつき、口端を上げた灯は身をかがめると、私の顔を面白そうに覗き込んだ。
さらりと流れた艶のある黒髪と、そっと細められた目が憎らしいほど色っぽい。
まるで名画から抜け出したような眉目秀麗な彼はスタイルも抜群で、ただ立っているだけなのに香り立つ色香をまとっていた。
品の良いダークグレーのスリーピースはオーダーメイドの一級品で、悔しいけれど見目麗しい彼によく似合っている。
雰囲気は……犬で例えるならシベリアンハスキーのような気品と精悍さを兼ね備えていて、堂々とした立ち振舞は日常的に多くの人を魅了した。