不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
「え……」
そのとき、不意に肩に手が乗って、弾かれたように顔を上げれば私を見つめる灯の穏やかな目と目が合った。
「わかりました。妻がなるべく安静でいられるように、僕もしっかり協力していきたいと思います」
灯の瞳は、「大丈夫だ」と私に語りかけているようにも見えて、思わず強張っていた身体から力が抜けた。
「……藤嶋、よかったな」
と、見つめ合っていた私達を前にぽつりと呟いたのは森先輩だ。
不思議に思って森先輩を仰ぎ見れば、先輩は何故かとても柔らかな表情を浮かべていた。
「今後、担当医は志村先生になるけど、俺も精いっぱいサポートするから、一緒に元気な赤ちゃんを産みましょう」
まるで向日葵みたいな眩しい笑顔だ。
また懐かしさを感じながらも、私は改めて「よろしくお願いします」と先生たちに頭を下げると、灯とふたりで診察室をあとにした。
「まさか前置胎盤ってだけじゃなくて、前置血管だなんてビックリだよね……」
帰り道、病院を出たあとタクシーに乗って、真っすぐに家まで帰ってきた私達は、今日の検診で言われたことについて話し合った。
「しかも前置血管が、五千人にひとりの確率だなんて……。なんか、ちょっとした宝くじに当たったみたいな気分で驚いちゃった」
ソファに座りながら苦笑いをこぼした私に、灯がマグカップに入れたココアを持ってきてくれた。
それを受け取って、カップの中に目を落とす。
ゆらゆらと揺らめく焦げ茶色の表面は、まるで今の私の心を表しているみたいだった。