不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
「……最低。灯なんて、大っ嫌い」
史上最悪な気持ちになった私はそう言い捨てると、灯を強く睨みつけたあと逃げるようにその場を立ち去った。
灯は最後までベンチに座ったまま立ち上がろうとはせず、ジッと自分の足元を見つめていた。
「なんで……っ。どうして……?」
帰り道は悔しさと悲しさと無力感に苛まれ、泣きながら走ったことを覚えている。
結局それ以来、灯とは家を通して以外では話す機会はなくなって、自然と心の距離は離れていった。
憧れていた森先輩のことだって、諦めざるを得なくなった。
とはいえ、もともと告白したところで実りそうもない恋心。先輩は雲の上の存在だったし、これに関しては灯のこととはあまり関係がないかもしれない。
そうして無情にも月日は流れ、私は母からのプレッシャーを受けるままにそれなりの大学を卒業後、フジリゾートが経営するフジロイヤルに就職し、ホテルフロントの職に就いた。
約半年前に灯が総支配人となって私達の婚約は正式に世間に発表され、つい二週間前に入籍して、先日挙式をあげたというわけだ。
なぜ、入籍が私の大学卒業後、すぐにされなかったかというと、灯のほうから自分が社会人として責任ある立場になってから話を進めたいという申し入れがあったから時期がズレた。
結局、最後まで灯の身勝手な言い分に振り回されたというわけだ。
まぁ、私からすれば結婚が五年遅れて、わずかでも自由でいられる時間を持てたのは有り難いことではあったけれど、その間も〝藤嶋灯の婚約者〟という肩書は私の中では呪いのように胸に刻まれていた。