不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
「ああ、十分ほど前にな。リビングの灯りが煌々(こうこう)としていたから何かと思ったら……。そんな薄着でよく寝られるな」
言いながら灯は自然な仕草で前髪をかき上げる。
「もしかして、この毛布、灯がかけてくれたの?」
「見ているだけで寒そうだったからな。風邪でも引かれて、俺に移されても面倒だし」
嫌味っぽく言った灯は言葉とは裏腹に、何故かその場を去ろうとはしなかった。
子供の頃はこんな言動をする人じゃなかったのに……なんて、何度考えたかわからないけれど、思い返すたびに悲しくなる。
「ごめんなさい。今日は後輩の子が急遽体調不良でお休みになって、そのフォローに入っていたから、いつもより疲れてたの」
そっと灯から目をそらした私は、手触りの良い毛布の端をギュッと握りしめた。
「ああ、その話は聞いた。それで、明日も牡丹がフォローに入る予定なのか?」
「ううん、無事に回復したから、明日は後輩の子が予定通り出勤することになったって米田さんから報告を受けたし大丈夫」
「……米田から?」
「うん。ちょうど家に着く五分前くらいに米田さんから電話がかかってきて、そんなわけだから明日はいつも通りでいいって教えてもらったの」
今日は懐かしい過去を振り返ったからだろうか。
ふと、遠い日の記憶の中の憧れの人──森先輩のことが脳裏をよぎって、胸の奥が締め付けられた。
そういえば米田さんって、森先輩とどことなく雰囲気が似てるんだ。
誠実そうなところとか、ふとしたときのやわらかな表情とか声とか、今更だけど、もともとの顔立ちもなんとなく似ている気がする。