不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
『灯が体操服を洗っている間に、牡丹が教科書をきれいにするね!』
そうして牡丹は宣言通り、俺のランドセルの中からグチャグチャにされた教科書やノートを取り出すと、ひとつひとつを丁寧に手で伸ばしてくれた。
その様子を見ながら、俺は目の端に滲んだ涙を拭った。
結局、教科書もノートも完全には綺麗にならなかったけど、そんなことはもうどうでもよかった。
同時に、牡丹が直してくれた教科書もノートも、もう二度と誰にも汚させないと心に誓った。
俺が嫌がらせを受けることで牡丹が泣くなら、牡丹を泣かせないためにも強くなろうと決めたんだ。
『灯、一緒に帰ろう?』
体操服を冷たい水で洗ったせいで赤くなった手と、教科書とノートについていたインクのせいで黒く汚れた手を繋ぐ。
『牡丹、ありがとう』
そう言ったら牡丹はほんの一瞬だけ驚いた顔をしてから、その名前の通り大きく花が咲くように微笑んだ。
『どういたしまして!』
俺はこのとき初めて、自分の牡丹に対する気持ちの名前を自覚した。
牡丹のことが好きだ。だから、これから先、何があっても彼女を守りたいと思ったんだ。
「……最低。灯なんて大っ嫌い、か」
隣で寝息を立てる牡丹を見つめながら、当時のことを思い出した俺は苦笑いをこぼした。
あの頃のように牡丹が直向きな目を俺に向けてくれることは、もう一生ないのかもしれない。
まさに、自業自得とはこのことだ。俺達の関係を壊したのは、間違いなく俺自身だった。