不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
 


「はぁ……俺はあの頃と、何も変わってないな」


 額に腕をのせて天井を仰げば、また十数年前の苦い記憶が蘇ってきた。

 牡丹のお父さんの会社が倒産の危機に陥り、俺の親父が助けてからというもの、仲が良かった両親たちの関係はそれまでとは変わってギクシャクし始めた。

 だけど家のことは俺と牡丹には関係のない話だと思っていたし、俺達はこれまで通り幼馴染として良好な関係を築いていけると思っていたんだ。

 ……親父が冗談で言った牡丹との結婚の話だって、真に受けていたわけじゃなかった。

 もちろん、いつか本当に牡丹と本物の家族になれたらいいとは思っていたけど、それは契約で縛られたものではなく、お互いの心が強く惹かれ合ってそうなればいいと望んでいた。

 これまでは幼馴染という近すぎる関係と、俺に勇気がないことが壁になって牡丹に気持ちを告げられずにいた。

 でも、近い将来、牡丹には『ずっと前から好きだった』と自分の気持ちを伝えようと決めていた。
 自分の言葉でしっかりと告白をしようと決めていたのに──あの日、偶然、塾の帰りに泣いている牡丹を見つけて公園で話をしてから、すべてが一変してしまった。


『灯は森先輩とも仲が良いし、先輩と私が付き合ってないことくらい知ってるでしょ? っていうか、そもそも森先輩とは話をしたことすらないのに……。それに今時、政略結婚だとか婚約だとか馬鹿げてるよ。灯もそう思うよね?』

『お母さんがマチコちゃんだけじゃなく、森先輩にまで迷惑をかけたらどうしよう……。森先輩に変な女だと思われたら、告白もできずに諦めなきゃいけなくなるかも』

『ねぇ、灯から森先輩に、何かあればすぐに私に報告してほしいって伝えてもらえない? あらかじめ話を聞いていたら、何かあったときに森先輩を驚かせずに済むだろうし……』


 頬を紅潮させ恥じらう様子は、初めて見る牡丹の姿だった。

 子供の頃、『世界中の人たちが俺のことを悪く言っても、自分だけはずっと俺のそばにいる』と告げた場所で、高校生になった牡丹は俺以外の男を想って、きれいな瞳を潤ませていた。

 
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