不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
 


「米田から、牡丹が体調不良で休んだって聞いて、仕事を早めに切り上げて帰ってきたんだよ」


 対して灯はビニール袋の中から天然水のペットボトルを取り出すと、それを私に手渡した。


「やっぱりこれ……灯が買ってきてくれたんだ」


 今朝、寝室のサイドテーブルに置いてあったものとメーカーが同じだ。ソファでうたた寝して毛布をかけてもらったとき以来の優しさを感じて、思わず肩から力が抜けた。


「すぐにお礼の連絡ができなくてごめんね、ありがとう」

「そんなことより、仕事を休むくらい体調が悪かったのに、なんで俺に連絡しなかった?」


 語気を強めた灯に、ついゴクリと喉が鳴った。


「それは……今日は朝から商談があるって聞いてたし、連絡したら迷惑かなと思って」


 別に、嘘をついたわけじゃない。灯に連絡しなかったのは、本当にそう思ったからだ。

 だけど私の答えを聞いた灯は、何故か重いため息をついてから、イライラした様子で自身の前髪をかき上げた。


「つい一時間ほど前にフロントに立ち寄ったら牡丹の姿がなくて、話を聞いたら体調が悪くて休んでいると言われた。それを聞かされたときの俺の気持ち、牡丹にわかるか? 俺は牡丹の夫なのに、まるで頼りにされてないな」


 そう言うと灯は、今度は自身のネクタイに指をかけて緩めた。

 身勝手な言動だと思うのに鼓動がドキンと跳ねたのは、そう言った灯の表情が、今度はやけに寂しそうに映ったからだ。

 というか改めてよく見たら、いつもしっかりと身に着けて帰ってくるスーツのジャケットは腕にかけているし、髪だってかき上げる前に乱れていた。

 
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