今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
そして首を横に小さく振った。


お願い、まだ、言わないで。もう少し待って。


「お兄ちゃんっ」


思わず以前の呼び方をしていた。


泣きそうになりながら祈るように彼に懇願していた。


私と目が合うと彼は顔をしかめた。


「チー」


辛そうに瞳を伏せてしまった。


「どうしたの?翔」


母が尋ねると彼は力なく息を吐いた。


「ごめん、なんでもない……」


「いま何か言おうとしたんじゃないの?」


「いやなにも……。
今から伊集院の家に行って愛華の様子を見てくるから」


「そうね、そうしてあげて」


母はホッと安堵したようにそう言った。


「でも、愛華さんてよっぽど翔が好きなのね。だからおかしな勘違いしちゃったのかもね」


「そうだよ。だってそんなことあるわけない」


すかさずそう答えた私の声は不自然に震えていた。
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