13番目の恋人
──就業時間を過ぎて、荷物をまとめていると
「頑張ってね」
万里子さんが両方でげんこつを作ってそう言った。

「大丈夫よ……楽しんで」
「はい、ありがとうございます」
私のまわりはなぜこんなにも心配性な人が多いのだろう。内心複雑だ。

「やほ、終わった? 迎えに来たよ。園田さん、お疲れ様です」
「お願いね、大宮くん」
万里子さんが大宮くんとそうやりとりして……
大宮くんと二人で会社を出る頃に、わざわざ秘書室まで迎えに来なくても……と言い掛けてやめた。代わりに
「迎えに来てくれてありがとう」と、練習した笑顔を向けた。

「いいえー。初めてこんな飲み会参加するなら、一人で合流しにくいだろ?」
彼は私のような練習した笑顔ではなく人懐こく笑った。確かにそうだ。お店に着いてもどこに座っていいかということすら、わからなく、立ちすくんでいたかもしれない。『ありがとう』って言っておいて良かった。

「室長とは、結構喋ってたな。彼の隣座る?」
「え、いいえ」
慌てて首を横に振った。ついでに手も振った。そのジェスチャーが大袈裟にうつったのだろうか。

「え、そんな嫌? 確かに彼は今回は見張り役だもんな、室長と親睦深めても仕方ないか」
大宮くんは、また自分で結論を出して頷いた。

「まずは、女子だな。女子はつるむから」
大宮くんはまた、人懐こい、笑顔を私に向けた。

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