お題小説まとめ①

世界の終わり

「明日で世界が終わるとしたら、誰と一緒に過ごしたい？」

そう尋ねる君の優しい微笑みが春の陽光で揺らいでいる。
手を伸ばせば触れられる距離。けれども意に反して俺の指先はぴくりとも動かない。
繰り返し用意した言葉は今日も伝えることはできなかった。
ちゃんと言えたら君はその柔らかい笑顔のまま、俺の隣にいてくれるはずなのに。

俺が黙り込んでいるうちに、君の姿が陽炎のように揺れて光に溶けだす。
ああ、やめてくれ。
俺の叫びは言葉にならない。代わりに、もう脳裏に刻み込まれた固い声が俺の唇から零れ落ちた。

「君は俺を置いていくのに、無責任なことを聞くんだな。」

俺の言葉に彼女の微笑みが崩れ去る。
彼女の見開かれた瞳が、記憶の通り哀しみに光って消えた。


言葉にならない悲鳴で目が覚めた。
まだ薄暗い室内で顔を覆う。乱れた呼吸が苦しくて肩を揺らした。

あの日から繰り返し夢を見ている。
自らの世界を終えようとしていた君に残酷な八つ当たりをした、あの日のことを。

何度も脳裏で再現される会話は今でも鮮明で、いくら後悔しても変えることはできない。
息が詰まるようなこの絶望さえつい昨日のことのようでちっとも色褪せてくれないのだ。
ああ、これは報いだ。
あの日、自分の心を守るために彼女を壊してしまったのだから。

俺の世界が終わる日は近い。
君のように多くの人に見送られることはないだろう。
俺の色褪せた世界は、今度こそ君にあの日の“正解”を伝える予行練習のためだけに続いていたのだから。

もしまた会うことができたなら、君が俺の言葉を信じてくれるまで何度だって繰り返そうと思う。
そうしたら君はまた花のように笑いかけてくれるだろうか。
その瞬間を思えば、少しだけ世界の終わりが優しいものに感じられた。
俺を置き去りにしたくせに、最後まで俺の傍らに気配を残してくれた君。

「俺は世界が終わるまで、君といたいよ。」

今度こそ、君に伝えよう。
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