娘は獣の腕の中
獣はいつの間にか夢を見ていた。
人間だった時の…娘を、何も悩む事なく想っていた頃からの…


……………

仕事も軌道に乗り始め、良い家も出来た。

(俺の大好きなティア…ティアに会いたい…。アイツは俺をまだ好きでいてくれているだろうか…?)

幼馴染である娘とはここ何年か会えていなかった。もう娘も年頃で、好きな男がいてもおかしくない。

(告白しよう…!ティアが受け入れてくれて、俺の建てたこの家で、二人幸せに暮らせたらどんなに……)

男はさっそく手紙を書き、数日後に娘と森のすぐ近くの村で会う約束をした。
そして、娘のことを想い、告白の言葉を考える。そんなささやかな幸せを噛み締めていた矢先のことだった。


「魔女…か…??」

「若い人間ね。こんな可愛らしい家を建てるなんて、大したものじゃないの。」

森の一軒家の来訪者は、黒いローブを身にまとった、瞳の赤い美しい女だった。

「気に入ったわ、私の別荘にピッタリね!…あなたも、私に良く似合うと思わない?」

「…俺の家だ。」

男は面倒なことになったと思いながらそう言うと、魔女は高く美しい声で笑った。

「私に似合うと言ったのは家じゃないわ。あなたの事よ。」

「俺はあんたに興味はないんだ…。」

「そうね、会ったばかりだわ。また来るわね、きっと私を気に入るわ。」

魔女は楽しそうなおもちゃを見つけたと言わんばかりに上機嫌で帰っていった。
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