娘は獣の腕の中
「…煩い小娘だ…。お前はただの餌…大人しく…抱かれていればいいものを…黙らねばお前を喰らってやるぞ…!!」

決して言えない質問をされ、冷酷な獣の振りをして娘を脅かそうとしたそのときだった。

「…お兄ちゃんに…もう、二度と会えないなら…あなたの…餌になっても…かまいません…」

娘の、初めて死を望む言葉に呼応するように、獣の身体は勝手に娘の首に手をかけた。
苦しむ娘を見て心から後悔し、叫んだ。

「や、やめてくれ…!!殺したくないんだ!!頼む…!!……もう死ぬことを望まないでくれ…!!お前を殺したくない…!」

男にもう会えないのだと理解した娘の絶望は、獣が思ったよりも深かった。


「あの娘が死を望むようになったら手助けをするよう魔法をかけたの。その方が楽しめるし、あの子がいなくなればあなたを振り向かせる自信があるもの。」

何の躊躇いも無く魔女は言った。

……………


(…俺がティアを愛しさえしなければ……もう傷つけたくない…ティア…)


昼近く、娘が目を覚ますと獣はもういなかった。

(あんなに獣さんも辛そうだったのに…。あの人に会いに行ってるのかな…もしかして、いつもそうだった…?私をあの人から守ろうとしてくれたの…?)

外に出られない娘は痛い身体を宥めながら家を掃除し始めた。その間ずっと獣の事を考えながら。
そうして日が暮れ始めた頃、いきなり体がガタガタと震え始め、足から急激に力が抜けた。

「きゃっ…!?」

嫌な感じがした。床に座り込んだまま自分の体を抱きしめ、獣のことを思った。

(私の体、なんか変…それに…頭がなんか、ぼーっとする……大丈夫かな…獣さん……お兄ちゃん……)


目を閉じた次の瞬間、頭の中から何かがスッと抜け出る感じがして……

「……あれ?私、なんでこんなところにいるの…??」

娘はすべてを忘れた。
兄と慕った幼馴染の男のことも、娘を傷つけながらも優しく抱き締めていた獣のことも。

「…誰かの家…?素敵なところ…!でも、誰もいない…誰かいませんか……?」

娘の問いかけに答えるものは誰もいなかった。
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