娘は獣の腕の中
その頃男は、家にあった食材で女に料理を振る舞いながら、嬉しそうに娘との思い出話をし始めた。
しかし、何故か記憶が曖昧で辻褄が合わず、何度も話が止まってしまった。

「おかしいな…なんで……」

「…昔のことなんかいいじゃない。私、あなたが好きなの。大事なのは今だけよ?ね、私お腹いっぱい。休んでからでいい、あなたとゆっくりしたいの…ダメ?」

色っぽい仕草で抱きつく女に、何故か違和感を覚えた。

「…なんでだ…違う……お前は……」

「忘れるの……今のことだけ考えて…」

魔女の瞳は再び赤く光り始めた。その時、

「お兄ちゃん…!!」

男の前に、先ほど家にいた娘が現れた。

「お前は……」

「…もう…!なんで魔法が解けたの…!?…あなた、襲って!」

男は獣の姿に変わり、操られるまま娘の前に立ちはだかった。

「やっぱり、お兄ちゃんだ……私のこと、忘れちゃったの…?ずっと私の為に、辛い目にあってたんでしょ…。私のこと、殺すつもりなんてなかったんだよね…?」

獣は唸り声をあげて娘を睨みつけた。

「その人が好き…?それでもいいの…私のこと心配してくれたお兄ちゃんが大好きだから…お兄ちゃんも愛してくれたから…!食べていいよ…私のこと…。お兄ちゃんの苦しみが救えるなら、いいよ…!」

獣はギラギラと光る目でじっと娘を見つめたままだったが、次第に穏やかに変わっていった。

「お兄ちゃん、私のこと心配してくれてありがとう…お兄ちゃんの役に立てたならいいの…愛してる……」

獣はゆっくりと娘に近づき、顔をそっと寄せると、獣の目からは涙が溢れた。娘は獣に抱きついた。

「…っ…!!なんで解けるのよ…!!強力な魔法をかけたはずなのに!!こんな何もできない人間の子に…!!」

「オレ…ノ……ティ…ア……ヲ……クル…シ…メ…ナイ…デ…クレ……タノム……」

「許せない…許せないわ……!!」

魔女の瞳はまた、怒りからか赤くギラつき始めた。

「お願いです…もうお兄ちゃんを苦しめないでください…!あなたが本当にお兄ちゃんのことが好きなら…」

「好きよ!欲しいわ!!あんたなんかに負けないくらいにね!!」
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