魔法の恋の行方・魔女の媚薬(シリーズ3 グリセラとリーディアン)
<小高い丘・13時30分>

リードは、腕で風から顔をかばいながら、
グリセラの背中に近寄った。

「グリセラっ、戻るんだ!!」
グリセラは反応しない。
ずっと遠くを見ている。

飛ばされそうなほど強い風なのに、グリセラは立ち続けている。
「グリセラっ!」

グリセラはゆっくり腕を上げて、
まっすぐ草原の先を指で示した。

風がとてつもなく強い。
リードは腕で顔をかばいながら、
指差した方向を見た。

空と地上にうがたれた大きな風の柱

・・竜巻だ・・・!

グリセラは何の感情も無いように
立って言った。
「戻って・・今なら間に合うから・・」

ただ、瞳だけが竜巻を追っている。
グリセラの心の叫びが、風を呼び起こしていた。

<自分が本当に欲しいものを見つけたのに・・
手に入れる事がかなわない>

<絶望と悲しみと・・・
虚無の中で生きていくことは
つらすぎる。>

そしてグリセラが、ゆっくりと
振り向いた。
なにもかも、あきらめたようにつぶやく。

「あなたを巻き込むことは、できない・・
生きる世界が違うから」

グリセラの髪が大きくなびく。

リードが叫んだ。
「グリセラ!一緒にくるんだっ!」
風の強さで、声がかき消されてしまう。
とにかくリードは。グリセラの腕をつかんだ。

グリセラは一瞬、夢から覚めたような、驚いたような表情をした。
アメジストの瞳が揺らいだ。

「ここにいたら巻き込まれるっ!」
リードはグリセラを、後ろから抱きしめた。
そのまま、丘の斜面を二人はころがり落ちた。

斜面の下には石垣があり、人がやっと入れるくらいの側溝があった。

リードはなんとかその側溝に
グリセラを下にして、身を横たえた。
風の轟音が響き、風圧で息ができないほどだ。



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